人類の敵

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「オレがコピーだなんて、どうやっても信じられないでしょう。言動が少しおかしいくらいでコピーかどうか判断するのはおかしくないですか?」 「口の中甘いだろう?」  冷静さを欠いていた少年の感覚器は普段の1/10も仕事をしてないようだった。それでも、少年の舌は鋭敏にその甘さを感じ取った。 「蜂蜜とレモンの味がします」 「このロリポップはコピー品が舐めると黄色から緑色に変化するようにできている」 「まるで成り代わった人がオレ以外にもたくさん居るような話っぷりですね」 「だから言ったろう? 人類の敵だって。人類と成り代わることによって人類とそっくり入れ替わって征服するつもりだろうが……成り代わることが最大の目的のようにも思える」 「成り代わるだけ……? どういうことですか先生」 「目的がハッキリしないんだ。もし成り代わって征服するつもりなら何らかの集合意識のような、目的を持って侵略してきてもおかしくない。だが彼ら……君らはそういった意思がないんだよ。成り代わったことを自覚できないのがその証拠だ。為すべきことを知らずにいる」  確かに、成り代わって何かをしようという気は全くない。そもそも成り代わっているという自覚ができない。 「本当に成り代わってるんですか? オレは、本当にオレじゃないんですか?」  混乱する少年の頭をぐしゃぐしゃと撫でて、まだ見えないか? と、先生は問う。  見えない? なんのことだ? 「こんな真っ暗闇で何を見るっていうんです?」 「だろうと思ったよ。君は目をやられている。まともに見えるようになるには時間がかかるだろう」  だが……、と先生は諭すように続ける。 「オリジナルの君なら、その状態でも  見 え る  はずだ。オリジナルとそっくり同じ能力の君でも同じことができるはずだからな。目を閉じて集中しろ。耳を澄ませ。アタシの部屋を記憶から呼んでみろ」  少年は導かれるまま意識を集中していく。先生の声が真正面から聞こえた。先生の部屋のベッドは窓際、部屋の隅、ドアがその先にあって、奥にもう一部屋。  暗闇の中からモノクロの景色が構築されていく。部屋の中のあらゆる物がまるで見えているかのように、そこにあることがはっきり分かる。 「次はゆっくり目を開けてみろ」  遠くから聞こえる先生の声を合図に瞼を上げていくと、聞こえた先に白い影が薄ぼんやりと浮かんでいる。 「先生、なんですかこれは……オレこんなこと……」 「オリジナルじゃないことがこれでハッキリしたな。オリジナルの君なら、今君が見ている世界をいつも見ていたはずだからな」 「オリジナルのオレって一体何なんですか……? どう考えても人間のなせる業ではないですよね」 「そうだなぁ……例えるなら蝙蝠と蛇を足したような、そんな感覚を持っていたよ」 「本当に人間なんですかオリジナルのオレ……」  少年はオリジナルすら人間ではない可能性を疑い始めた。  記憶の中には確かにある。モノクロの世界を歩いている記憶。その隣を歩いていたのは生徒会長だった。記憶が曖昧でモノクロだったわけではない。本当にモノクロの世界だったわけだ。  その記憶の中、生徒会長はオレに話しかけている。ひどい雑音の中、何を言っているのか分からない。  分かることは一つだけ。彼女はとても嬉しそうにしていた。 「先生、オレはこれからどうしたらいい?」
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