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わけのわからないことの連続で頭の中は台風の後の街中のようだ。おまけに今の少年は嵐の中の小舟に等しい。頼れるのは目の前の船長だ。
その船長の表情こそ分からないが、優しい視線を投げているのは確かだと、少年は感じていた。
船長は北斗星の方角を少年に告げる。
「本物の君を見つけるんだ、少年。暫くはアタシの家で過ごすといい。そもそも君の制服は血塗れで出歩くことすらできないしな。因みに今の君は全裸だ」
「どうしてそういう事先に言ってくれないんですか!?」
「君の容態をチェックするために服を全て取る必要があったんだよ。別に恥じることはない。いい体じゃないか」
慌てて丸まった少年を見て、先生は喉を鳴らすのを自重した。オリジナルならこんな乙女のような恥じらい方はしない。却ってそれが新鮮に感じる。だから更に少年を追い詰める。
「アタシの服しかないから、全裸が嫌ならアタシの服を着ろ」
少年に服をいくつか投げ渡すと、少年の生着替えをマジマジと観察した。少年の体に無駄な肉はなく、腹筋は4つに割れていて、肩は大きく、腰は少しくびれている。その体つきの癖に、顔はかわいい。
「先生オレより身長高い割に細いんですね」
先生の服は少し長くて少し窮屈だった。
「当たり前だ。鍛えてるからな。それより腹減っただろ? さっと作れるやつにするから食べろ」
「先生料理できたんですね。てっきり外食派かと」
「性格がガサツなのと料理の腕は関係ないぞ、少年」
デコピン一発で失言を許してくれるあたり、先生は少年の口に甘い。軽口を叩ける程度には少年の気持ちも落ち着いている。まずは今日を生きることが第一だ。
暫くして食事の用意ができたようだ。食卓には鯖の塩焼き、水菜の煮浸し、味噌汁が並んでいる。スタンダードな和食だ。
「目が見えてたらオレも手伝えたんですけど……」
鯖を摘みながら申し訳なさそうにする少年を、先生は愛おしそうな目をしつつ、ふふっと笑みを零した。
「アタシと肩並べて料理したいならあと2年位待つ必要があるな」
「いや、オレもそれなりにできるつもりでいますけど? 先生のレベルに追いつくのに2年は要らないですよ」
「本当に今の君は察しが悪いなぁ。本当に彼のコピーなのかい?」
「そう言われてもオレはオレだしな……オレにはそのオリジナルと違うと言われてもオレ自身が否定されてるように聞こえるだけですからね」
それもそうか、と先生はご飯を口に入れる。目の前の少年はやはりオリジナルではないと確信できる。これをロリポップ無しで、放課後の僅かな時間で見抜いた生徒会長はやはり只者ではない。
オリジナルとコピーが違うたった1つの点は心にある。思考や性格に関わる部分が本物とは違うため、本人に親しい人なら見分けがつく。が、それに気付くのは本当に親しい人だけだろう。
先生も生徒会長も少年にとって大事な存在であることに間違いない。
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