人類の敵

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「1つ、教えてほしいんですけど」  真剣な眼差しの少年に対し、何かな、少年。と、優しい眼差しの先生。 「成り代わりのきっかけって何か分かってるんですか?」  先生の眉がピクリと動いた。僅かな無言の後、あー…、と前置きして先生は答えるのだった。 「それが分かっていたら、多分君はオリジナルのままだっただろうな」 「…………。ですよね」  エアコンが霜取りのために停止した。カラカラとファンがゆっくり止まる音がする。 「ほら、毛布だ。こいつにくるまって寝ろ」  ばさぁ、と音を立てて頭から被らされた。少年はワタワタしながら毛布を両手で抱え込むと、おやすみと言ってソファーの上で丸まった。小動物のようにもそもそと毛布に潜り込んでしばらく経つと動きが止まった。  先生はそれを見て自分もベッドの上で仰向けになった。  少年が次に目を覚したのは13時を少し過ぎたところだった。部屋に先生の姿は当然なく、エアコンの稼働音が囁くのみだった。  少年の目は少し回復していて、色や輪郭がおぼろげに分かるようになっていた。この程度では耳で見た方が詳細に分かるので、少年は目を閉じておくことにした。  本物の自分を探すこと、人類の敵とは、なぜ生徒会長と先生は人類の敵と戦っているのか。少年の前には問題がいくつも積んである。  その中で少年は、まずは本物の自分を見つけようと考えた。  本物と成り代わったタイミングが分かれば本物がどこにいるか分かる。だが、自分の人格がどこで変わったかなど自分に分かるはずもない。とすれば、自ずと自分に近い人間から話を聞くことが一番だ。  自分に近い人間はいくつかいる。生徒会長が最たる例だ。彼女が成り代わりに気が付いた第一号と言っても良い。しかし成り代わったタイミングを彼女はある程度分かっているはずだ。すると成り代わったタイミングを知っても意味はないのだろうか。 「そもそも成り代わりってなんだ? コピーが居るならオリジナルが居る、の理屈は分かるが、オリジナルはどうしてる? 書庫でフォルダの中に保存してあんのか?」  状況から考えて、オリジナルとコピーが同時に社会生活しているとは考えにくい。特に高校生なんか行動範囲は狭いわけで、すぐに見つかるだろう。  オリジナルが今どこで何をしているのか、少年には全く想像もつかない。オリジナルの少年は相当に察しが良く目も耳も利く人物とすると、例えば拉致監禁されていたとしても上手く立ち回っているだろう。  そうか。
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