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自分の当たり前が否定された今、しかして快適である今、オリジナルを前にしたらきっとこうなる。
劣化コピーの方がマシじゃないか。と。
少年はこの能力がいつから劣化していたか記憶を遡った。どうやら3日前には劣化していたようだ。
「なんでこんな単純なことに気が付かなかったんだろう……」
「単純であるが故に気が付きにくくなってることもあるさ」
意識の問題か。当たり前を上書きされたら気付けないものか。
「さて、晩御飯だ。君の目も戻ってきたみたいだし、手伝ってもらおうかな」
「今日は何作るんですか?」
「筑前煮と肉じゃがさ。今日は冷えるからな」
「先生昨日から思ってたんですけど……」
「何かね、少年。はっきり言い給え」
「あー……その、先生は大人なんだなって……思いました」
料理のレパートリーが若くないとは言えなかった。
「当たり前だろう何言ってるんだ」
ふんふーんと鼻歌交じりに食材を切り始める先生を見て、少年は鍋に向かった。
「やはりそうきたか少年」
「オレが先生より得意なのは多分これだけですから」
鍋の大きさを一瞥し、油を温める。その脇でお椀に醤油や麺つゆや出汁を混ぜていく。
「ほぉ、少年。目分量でいけるのか」
「オレは料理する時に何かを計ったことないですから」
渡された肉を鍋に入れ、軽く炒める。ピンク色が褐色に変わり始めたら調味液に入れて休める。続いて人参、玉ねぎを炒めて油を絡ませる。人参のカロテンは油に溶けやすく、玉ねぎはじっくり加熱することで甘みが出る。
熱が通ったら残りの食材を混ぜ炒めて火を軽く通す。最後に調味液と肉を流し込み、浸るまで水を足して煮込む。
「中々面白い作り方をするじゃないか少年」
「我流ですからね。でも味は保証しますよ」
「この手のことも教育してやりたいものだな」
洗い物をしながら先生はポツリと呟いた。
「先生、オレ……考えたんですけど、今回の一連の事は宇宙人の仕業と見たんですがどうでしょう」
んふっ、ともらした先生は洗いかけの包丁をシンクに落とした。ガランガランと音を立てながらシンクの中をひとしきり包丁は暴れて排水口に突き刺さった。
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