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「大野とわたしはさ、こうやってかなりの頻度で一緒にご飯行くじゃん。昼だったり夜だったりさ。お互い40も過ぎててさ、別に仕事で便宜を図り合えるわけでもなく、特にリターンもないのにさ」
つまりさ。わたしは言葉を切ってラーメンの丼を覗き込んだ。てらてらと光る卵色の麺の上に、肉厚のチャーシューが一枚、鎮座している。この店の売りである、肉厚でジューシーなチャーシューだ。少し言い淀んでから、えいや、とわたしは言葉を続ける
「つまり、そういうのをさ、愛とは言わないけど、大袈裟に言うのであれば、友情とか、信頼関係と、呼ぶのではないかな」
大野がきょとんとした。それから、ゆっくりと微笑む。
別に慰めたいわけではなかった。でも、愛を求めてさまよう友に、ささやかであってもエールを送りたい。愛ではなかったとしても、君のことを想う友人がここに居るのだと、知ってほしい。リターンがなくても、わたしたちは確かにお互いを思いやり、これからもこうして一緒に飯を食うのだ。
わたしは貴重なチャーシューをそっと箸で持ち上げて大野のラーメンに載せてやった。顔を見合わせてにっこりする。
愛ほどきらびやかではない。少年同士の友情ほどまぶしいものでもない。それでも確かにそこにあってわたしたちを支えてくれるもの。
確かな友情を支えに、より良い明日に向かって足掻け、全力中年よ。
ー 完 ー
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