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勿論、目を瞠るほどかっこいいとか、お手伝いさんを雇える程お金を稼いでいるとかそんなことはないけれど、それでも一部上場企業にこつこつと20年勤めあげてきた大野は、一般的にはかなりの優良物件と言えるだろう。奥さんは、そんな大野のどこに愛想をつかしたのか。
「もう疲れちゃった」
彼女は言ったそうだ。
「毎日毎日同じことの繰り返しで、ただ漫然と歳を取って行って、楽しみと言えば録画してある連ドラだけ。何のために生きてるのか分からない」
言い残して彼女は離婚届に判を押し、韓国語だかなんだかを学ぶために海外留学に旅立ってしまったそうだ。彼女の意向で大野家に子供がいなかったことも、彼女の衝動を後押ししたと言えなくもないだろう。
「正直に言えば、奥さんの気持ちは分からんでもない」
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