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最初大野からその話を聞いた時、わたしは言った。わたし自身、結婚して早15年。子供たちはある程度手を離れ、配偶者との会話も減った。良く言えば阿吽の呼吸、悪く言えばお互いにとって空気のような存在になりつつある。この先の人生に何があるのだろうかと自問自答する歳になってきた。人は、誰かのためならば頑張れる。でも、自分自身のために頑張れ、と言われると途端に途方に暮れてしまう。物思いにふけるわたしを前に、大野は滔々と何故自分がパパ活を始めようと思ったのかを語り始めた。
「あんな、俺はさ、今まで結構頑張って生きてきたわけや。仕事にいそしみ、家庭も大事に、そりゃたまに飲みすぎたり仕事で失敗したりもあったけどさ、まあまあそれでも人さまに迷惑かけずに生きてきたんですよ。でも今離婚してな、奥さんは自分がやりたいこと見つけて羽根が生えたみたいに一人で飛んでってもうてさ。俺はじゃあ、何がやりたいんやろうって考えた訳。でも、思いつかんのよな。一人で生きていくには十分な稼ぎがあって、時間もそこそこある。何が足りん?って自問自答した時に、分かってん。俺に足りないのはな、愛、なんやとな」
「愛、とな」
「愛、ですやん」
「バカなの?」
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