妄想の君と

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「ひゃぁ!冷たい!」 男が目を覚ますと、メイド服を着た若い女が男の体を拭きながらつぶやく。 「ごめんなさい。温度が冷たかったですかね」 豪華な部屋のソファに腰かけていた男は自分の状況を再確認するようにあたりを見回す。 頭に霧がかかったように記憶が曖昧だが、状況から判断するに、この女は使用人らしい。 自分が指示を出すまでもなく、メイド服の女は食事を食べさせてくれたり、テレビをつけてくれたりと身の回りの世話をしてくれるからだ。 行動するたび喋る女だが、なぜか一方的に話しかけてくるので最初は言葉がかみ合わなかった。 さほど気にもせず外に出ようと扉を開けると鋼鉄の壁が立ちはだかる。 「これでは外に出られないじゃないか」 そう怒りながら男が詰め寄ると、優しそうな笑顔で女は答えた。 「あなたは意識不明の重体患者。植物状態で入院中なのよ。私はあなたを看病する看護師だけれど、毎日話しかけているうちに、あなたの脳は刺激され、いつしか私の事を脳内で認識できるようになったの」 「でも君は目の前に存在しているじゃないか?それに僕はこうして動くこともできる」 驚く男は混乱しながらも女に質問した。すると女は冷静に話し始める。 「あなたは空想の部屋から出られない。現実では病室が世界の全てであり、疑似体験しているだけなのよ。今まで私が話しかけた言葉の数々を組み合わせて、想像上の私を脳内で生み出してしまったというわけよ」 認めたくない現実。しかし現実世界の病院で男の体はベッドに横たわる。 「はい、体を拭きましょうね」 優しい笑顔で接してくれる看護師の女がそこにはいた。 END
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