コルセットの行き先

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「あぁ首が痛い」 男は首が痛くて病院の診察に行った帰りであった。「ヘルニアですね」そう病院の先生に言われて首にコルセットを巻くはめになったのだ。 「酒でも飲みながらスポーツ中継をみて嫌な事は忘れてしまおう」 帰宅しようと歩きながら、そう思い立ち、角を曲がったところにあるコンビニに寄ろうとしたところ、「痛い!痛い!」急激な首の痛みに襲われて、首も体も曲げられず、そのまま角のコンビニを通りすぎてしまう。 「どうしよう。首が痛くて道を曲がることができないじゃないか」 直進しかできないと困るので何とかして道を曲がろうと試みる男。 何度も挑戦していくうちにコツがわかってきたのか、痛みを感じる瞬間に体を斜めにすると方向が傾くことを発見した。 「少し遠回りになるけれど、この方法で進んでみよう」 やっと自宅前の横断歩道までたどりついた。 「やっと帰れる」そう思った矢先、工事現場のオジサンが道路に立ち入り禁止の看板を置く。 「今から工事するので右に曲がってくださいね」 「それができないのですよ!」 苦労した道のりが水の泡となり怒りながら痛みが和らぐ方向へ体を傾けて進む男。しかし同じ工事現場の個所に何度もグルグルとたどり着いてしまう。 呆れ顔で眺めるオジサンを見ながら 「ほらね?首が痛くて曲がれないのですよ」 と嫌味のように告げると、オジサンは無表情で男に近づいてくる。 「うわぁ!ごめんなさい!殴らないで」 男がとっさに身構えて目をつむると、ヒョイっと体が軽くなるのを感じた。 「これで右に曲がれるでしょう」 工事現場のオジサンは男を持ち上げると進行方向を変えてくれたのである。 「ありがとうオジサン」 そう感謝しつつ右の道を進みながら気が付く。 「だから工事中の道を直進しないと帰宅できないの!」 END
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