2日目

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2日目

 初日の配達は先輩の誘導に頼り、予定時間を10分程度オーバーして終了した。 幸い自給制では無かったので罪悪感は薄かったが、今後はもう少しスピードを上げなければ足を引っ張ってしまうな。  この歳になって自転車を漕ぎ、体力仕事をする事になるとは思わなかった。だか、早起きしてジョギングする程度の運動で金が入るのは丁度良い。  明日からも勿論出勤するつもりで事務所へ戻ると、驚いたように配達員や折り込みを整理していた従業員が振り返る。 「もしかして…明日も来てくれるんですか?」 「え?あの…何か、不都合でも…?」  状況の理解が出来ない俺に、数名の視線が寄せられ、そして…。 「ありがとう!!!君みたいな人を待っていたんだよ!!」 「…はい?」  夜明け前の、まだ鳥も鳴かない時間帯だと言うのに事務所内はお祭り騒ぎである。  一体何だってんだ。これまで経験してこなかったタイプの職が故、従業員の特徴がわからない。 眠らずこの時間まで働いているせいでハイにでもなっているのか、それとも元々そういう性格の人間の集まりなのか。 「第3地区の配達はこれから君で固定になるから、くれぐれも投げ出さないようにね」 「……そのつもりですが…」  なるほどこれは訳ありアパートが原因だな。  そういえば、道を覚えるのに必死で上はおろか例の建物がどれだったのかも確認出来ず終いだった。 今から地図を取りに行くには帰り支度を整えてしまったし…こりゃ明日の夜中までお預けだ。 「では明日も深夜2時、忘れずにお願いしますね〜!」 喜びの隠しきれていない声色を背中に浴び、アルバイト初日を終えたのだった。  いくら決められた配達ルートがあるとはいえ、所詮は地元。第3地区と定められた区画もまた、通り慣れた道がほとんどだった。  あそこまで従業員皆して怖がるような場所であれば、普通なら心霊スポットだとか何だとかで有名になってもおかしくないが…生憎俺は今までこの地で生きてきた中で唯の一度も聞いた事が無い。  きっと働きたくない若者が咄嗟についた嘘だろう。真夜中の配達じゃ、たまたま通りかかった住人をお化けと見間違えたなんて事もあるかもしれない。  学生バイトとは訳が違う、サラリーマンと兼任するこの大人が訳もわからずアパート如きに怯える筈がないだろうに。  本業を終えて一眠りすれば、不気味な噂話などすっかり頭から抜けていた。  そして、新聞配達勤務2日目のその日。 「…な、なんだアレは……」  真っ赤な印をつけられたアパートの、3階から見えたのは──。 「ひっ…!!」  大人の胸元の高さはあるであろう手すりに座る、20代くらいの若い男だった。
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