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いつも以上にぼうっとしている間に冬休みが終わり、最終学期が始まってすぐ、その噂は俺の耳にも入ってきた。
「上杉の妹が亡くなったらしいぞ。まだ小学生だったみたいだ」
情報通の道家から聞いた時、頭が真っ白になった。
聞けば上杉は冬休み前から学校も休んでいたらしい。
「あいつは学校では妹さんの病気のことは一切話していなかったみたいだ。だからクラスの連中も混乱していたぞ」
道家も複雑そうな顔をしていた。そして多分、俺も。
「だとしたら俺も、ずいぶんひどいことを言ってしまったな。外に女がいるとか、遊んでるとか、多分誤解だろ。ふられた女子の腹いせだったかもだしな」
道家はすっかり落ち込んでいた。本当はいいやつだからな。こいつも。
俺は俺で複雑だった。
初めて会った時、あいつが泣いていたのは十中八九妹さんのことで、だろう。俺が妹さんと同じ誕生日だと知って、あんな不思議な表情をしたのかもやっとわかった。
でも俺は、何も知らなくて、ただあいつと会えなくなったのを寂しがっていただけなんだ。
あまつさえ、あいつの泣き顔を綺麗なんて思ってしまったから、罪悪感が重すぎた。あいつがどんな気持ちでいたのか、今思うと辛い。辛すぎて、俺まで胸が痛くなる。
その時俺は初めて知った。
誰もが自分の痛みをペラペラ話すわけじゃないってことに。きっとみんなそれぞれ何か痛みや悩みはもっている。それを隠して、普通の顔をしているだけかもしれない。
だって本当に辛いことは、たやすく他人には言えないと思うから。
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