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秋になって、時々、学校でも、上杉を見かけるようになった。まるでそれが厳粛な決め事みたいに、学校では、俺たちは言葉も視線も交わさない。
上杉は、多分、俺の名前さえ知らない。それでもあいつは俺の誕生日だけは知ってる。それを思うと、胸の奥がツンとした。
「お前さー。最近ちょっとおかしいな」
放課後、ドーナツ屋さんで、道家がつまらなさそうに言った。
「え? 俺が?」
「そ。お前。俺にはわかるぞ。お前、アイツに恋、してるだろ?」
「あいつ?」
「上杉爽平」
「……っ!」
チョコドーナツが喉にひっかかって、むせた。勘弁してくれ。せめて、飲み込んでから言って欲しい。
「何言ってんだよ。全然、接点ないし。お前の勘違いだよ」
「確かに接点はないがな。なんか怪しい」
ギクッとした。もちろん誕生日にスポーツドリンクを買ってもらったことは内緒にしていたから。
「それに男同士だろ。俺たちは」
「男同士でも、恋愛感情持つことくらいあるだろ」
あまりにサラッと言われて、びっくりした。
え。まさか。道家はそうなんだろうか。
確かにコイツは3年間女っ気なかったし、女嫌いっぽい所はあるけれども。
ドーナツを頬ばろうとしたまま固まってしまった。道家は今まで見たこともないような、大人びた表情で俺を見ている。やがて、力を抜いたように笑った。
「まぁ無自覚ということもあるから言っておくが、マジで上杉爽平だけはやめておけ。きっとお前が泣くことになる」
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