桜の花びらを纏う君と恋を。

6/9
前へ
/9ページ
次へ
 秋になって、時々、学校でも、上杉を見かけるようになった。まるでそれが厳粛な決め事みたいに、学校では、俺たちは言葉も視線も交わさない。  上杉は、多分、俺の名前さえ知らない。それでもあいつは俺の誕生日だけは知ってる。それを思うと、胸の奥がツンとした。 「お前さー。最近ちょっとおかしいな」  放課後、ドーナツ屋さんで、道家がつまらなさそうに言った。 「え? 俺が?」 「そ。お前。俺にはわかるぞ。お前、アイツに恋、してるだろ?」 「あいつ?」 「上杉爽平」 「……っ!」  チョコドーナツが喉にひっかかって、むせた。勘弁してくれ。せめて、飲み込んでから言って欲しい。 「何言ってんだよ。全然、接点ないし。お前の勘違いだよ」 「確かに接点はないがな。なんか怪しい」  ギクッとした。もちろん誕生日にスポーツドリンクを買ってもらったことは内緒にしていたから。 「それに男同士だろ。俺たちは」 「男同士でも、恋愛感情持つことくらいあるだろ」  あまりにサラッと言われて、びっくりした。  え。まさか。道家はそうなんだろうか。  確かにコイツは3年間女っ気なかったし、女嫌いっぽい所はあるけれども。  ドーナツを頬ばろうとしたまま固まってしまった。道家は今まで見たこともないような、大人びた表情で俺を見ている。やがて、力を抜いたように笑った。 「まぁ無自覚ということもあるから言っておくが、マジで上杉爽平だけはやめておけ。きっとお前が泣くことになる」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加