契約

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 彼は男が自らの体験を元にネットに投稿し始めた随筆を見かけて深く心を動かされた者だった。  ジャーナリストの彼は本当は小説家になりたかったのだが家がそれを許さなかった。しかし夢が捨てきれず様々な大手公募に応募しているが、最終選考まででとどまってしまっていた。さらに投稿サイトにも投稿していたのだが、こちらでは小さな賞さえ取れぬどころか、明らかに質の低い物が大賞を取る事に憤慨していた。  他者の人生をどうこう出来る立場の者に責任や素養が足りていないと言う思いが共感したのだ。  若者は男の話を聞き、能力の足りぬ者が上に居る事で有能な者を埋もれさせる社会に憤りを感じ行動を開始した。  驚くべき事に社会を変えようとする彼に契約を持ちかけるとあっさりと魂を差し出した。そしてそれによって彼の言葉は多くの者に届いた。  彼が望んだものは過激な事ではない、ただ現状に疑問を持つ事だった。疑問の回答を強要する事でもなかった。だが右習えと慣習のこの国において、それは大きな意味を持った。
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