契約

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 ハウエルは気の毒に思うべきか、理不尽なギャグの様だと笑うべきか判断に困った。ただ淡々とした男の語り口の中に恨み節も無く、悔しさや怒りなどの負の感情が一切含まれておらず、完全に他人事だったのは気になった。  大方話し終えた男は見えない相手に視線を合わせ微笑んだ。 「高校も大学も入試者が定員割れした世代の子にね、お前らは無能な奴だと言われたり、売り手市場で接待迄受けて入社した世代から、お前達は努力が足りない、自己責任だなどとか言われるとね、ああ、我々はこの国に不要だったのかと、なら最初から居なければ苦労はしなかったとね」  ハウエルはさすがにと言った。 「貴方達の世代一人一人に貧しさを押し付けられたからこの国は永らえたのかもしれない」 「生贄の羊ね。今それは神にではなく悪魔さんに捧げられようとしている訳か」  男は笑った。そして言った。 「でも少しだけ言い訳いいかな。有名な外国の経済誌にはこんな事が書かれたんだ。『その国の人々は一生懸命働き薬物乱用はほとんどなく、犯罪は最小限でシングルマザーはまれなのに貧困層は大勢いる』。それとは別の国の大学の経済学ではこんな事を言われたそうだ『あの国の貧困者は薬物もやらず犯罪者の家族でもなく移民でもない。教育水準が低い訳でもなく、怠惰でもなく勤勉で労働時間も長くスキルが低い訳でもない。世界的にも例の無い完全な「政策のミス」による貧困だ』。私達の努力の問題では無かったと思うよ」
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