契約

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 ハウエルは理解した。手を尽くしたのだ。幸運なしでどうにかなる人生では無かったのだろう。同じ逆境でも男が戦火の時代に生きていたら、黒死病が蔓延している時代に居たなら、こうではなかっただろう。  この男の少し前は優遇された世代だった。この男の少し後は救いの手がある世代だった。この男の世代だけがいつも社会がグルになって狙い澄ましたかの如く不幸を押し付けて来たのだ。  青い芝生の間で何故いつも自分達だけがと思わされて来たのだろう。  そして彼はこの魂の色のままに人がよすぎた。怒りや憎しみを募らせぬ代わりに、この世界への執着や興味と共に自身へのそれも失せて行ったのだ。  今彼の目には世界も自身も全く魅力の無い煩わしいものになっている。国が彼を見捨てた様に彼がこの世界に愛想をつかしているのだ。  これでは契約は取れそうにない。かと言って諦めてしまうには惜しい。苦し紛れにハウエルは言った。 「大金、地位、若さ、貴方がこれまで得られなかった、失ったものを提供しまよう。私と契約してやり直しませんか」 「話はここまでだ」  取り付く島もないまま男は立ち上がって再びロープに手を掛けた。興味がないのだ。それ程までに裏切られてきたのだろう。この世界に価値を感じないのだろう。
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