契約

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 天の国から堕天したばかりのハウエルは地上世界に現臨していた。  何度も通った見知った世界ではあるが、その国に訪れたのは初めての事だった。  彼の主だった神の威光とは別の力をしかも恐ろしく多様なそれらを強く感じる。つまりは多神教が信仰されている国なのであろう。背信者である彼にはぴったりの辺境と言う訳だ。  新参者として速やかに地獄へ挨拶に行く方が良いのか、手土産を用意した方が良いのかそんな事を考えた時だった。  天使だった頃には無い感覚がハウエルに強く訴えたのだ。それは質の高い魂の反応だと本能が理解していた。  この魂を手土産にすれば新参者の自分の扱いも酷くはなるまい、それに初めて契約をするのならばこれ位を相手にしたいものだ。  顔を向けると熱くなる。血に火が灯る。その反応を辿ってハウエルが飛んだ先、鬱蒼と茂る森の中で、五十前後の男は首に縄をかけた所だった。 「待ちなさい」  聞こえた訳ではない、頭の中に響く未知の言語の意味を男は理解していた。  いくら自殺の名所だからってIT時代に超常現象も無いだろうと、男は無視を決め込み輪に顔を通したが飛ばされる様に外されてしまった。  物理現象が起きたとなれば流石に気の迷いではない。
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