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朝。カーテンの隙間から光が差し込むことで目が覚める。隣にいる塊はよく見るモノだった。みんなから好かれる人気者、自分の前だけはわがままっ子。目はでかく、鼻筋は通っている。ただ、好みが合わない。インドア派のオレ、アウトドア派のこいつ。この塊の黒い部分を撫でながら、片手で日本酒を注ぐ。一杯、また一杯と注いではなくなり、注ぐ。
後ろの塊がもぞりと動く。
「……ん。はよ」
「はよ……お前、朝から飲んでるのかよ。まあいいや。なあ、山、いかね?」
「山ぁ?……いいけどよ」
「ん。飯食ったら行こ」
ゆっくりと米を口に運び、咀嚼する。甘味がじわりと広がる。
「ごちそうさまでした!なあ、早く行こうぜー。はやくぅ」
今食ってるんだから待てよ、と心の中でつぶやき、最後の一口を飲み下す。
「ごちそーさま。食ったわ。行くんだろ?山」
「んーあとちょっとー。これ見終わったら」
相変わらずの自由さに溜息をこぼす。
行こうぜ、と3回提案したところではた、と思いつく。今日こそ絶好の日ではないか。
そして塊はゆっくり動く。それに合わせて動き出す。
「ついたー!!」
「なぁ、ここらで休まねぇ?」
「ん?いいけどよ。ピクニック用のシートなんて持ってきたか?」
じっとりと湿った土にブルーシートを敷く。光も届きにくくて、雨も降りそう。
「なーお前さー、魚とろうぜ、それ焼いて食おーぜ。俺先に川行って魚とっとくわ。火種よろしく」
「ん」
そうして塊はご機嫌に川のそばに行く。適当に葉っぱと、落ちてる木。あとライターを用意してブルーシートに戻る。塊は元の場所に戻ってきていた。
「あ、お帰り。な、火種あった?」
「あったぞ。あと部屋からライター持ってきてるから取ってくれないか?」
「いいけどよー。あ、先に俺水呑んでもいいか?」
許可を出す前に自分のリュックを漁りだす塊の手の先からきらりと銀色のナニカが光った。それをポケットにしまうと、次は俺のカバンを漁りだした。これは、先手必勝だな。
「なー。どこだ、よ……」
振り返る直前に大きく両手を振りかぶった。手と手の間には、大き目な石を。
ごつん、と石を頭に打ち付ける。血がだらだらと出ている。自然と息が上がってくる。ランニングよりも息が上がっているかもしれない。もういちど、ごつん、と塊に石をぶつける。この塊の自我が嫌いだった。妬ましくて嫌いで嫌いでたまらない。やりきった、それが一番の感触だった。
数分、いや、もしかしたら数秒かもしれない。雨が音を立てて降りしきりだした。自分の茹った頭を冷却するのにちょうどよかった。そうしてシートに塊を包む。近くまで持ってきたシャベルで穴を掘る。深めに掘ったそのあとにはその塊を入れて、土をかぶせる。ざっ、ざっ、っと音が耳元でなる。耳の後ろであの塊の黒い部分に打ち付けたときの音がする。ごつん、ざっ、ごつん、ざっ。そうして埋めた。その頃には雨が止むほどの通り雨だったらしい。火を起こして、塊が最後に持っていたナイフで魚をさばき、焼く。こんがりと色目のついた魚は塩味が効いてておいしかった。
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