初めてがいっぱい

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会社のあるマンションに着く。設計事務所は十二階建てマンションのテナントだ。一階の端にあるガラス戸を開けるとハンドバックとトートバッグをデスクに置いた。トートバッグには仕事に関する勉強をしたノートや本、筆記用具が入っている。 三人しか従業員がいないから掃除は月曜日と木曜日だけだ。玄関マットを外で叩いて十二畳ほどの部屋に掃除機をかける。それが終わったら拭き掃除をして最後にトイレと洗面所だ。全部終わると薄っすらと汗ばんでいる。掃除の途中で出勤してきた深瀬が言う。 「終わったら少し休んで。今日や明日の締め切りはないから」 「はい。コーヒーを淹れますね。コーヒーメーカーがあってよかった」 「お菓子もたっぷりあるしね。小腹が空いたら好きなものを食べていいから」  クッキーやお煎餅が冷蔵庫の横にある棚にたくさん置いてある。社長が奥さんに持たされるのだそうだ。  従業員は三人だがデスクは四つある。七緒の隣に深瀬が居て深瀬の前は社長だ。その横にある席もたまに社長が使う。パソコン二台持ちだ。一台は会社用に一台は趣味に使っているのだという。社長の趣味は三次元CADで機械設計をしながら発明品を作ることだ。近所のアイス工場でラインに流れて来る棒アイスを箱詰めする人材を募集しているのを知ってアイスの箱詰め機をCADでモデリングして作った。特許が取れてかなり儲かったという。
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