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山田勇
雨が降ってきた。
地下鉄から地上へ歩くと、ポチャンポチャンと雨が降っている中、山田勇は歩いている。
台原の地下鉄から外は大通りが目の前にあり、地下鉄側はローソンがあり、台原へ行く方はセブンイレブンがある。セブンイレブンの横が下へ向かって歩いて行く道になっている。しばらくすると小学校、障害者訓練校のメインの道になる。小学校の切れ目から左側へ進むと生協である。
歩く度に雨の音が響く。
濡れたまま障害者訓練校のミズキ寮へ入っていく。館主に帰宅を伝えて男子寮へ行く。
山田勇はなんか疲れていた。
寮内は静かだった。まだ誰も帰って来ていない。
室内は4人部屋で4つの机とベッドが広い部屋に向かい合って2列になってある。
机に好きな物を置いたり飾ったりする。
ベッドは一畳だと思うが畳がなってあり、自宅から持参するベッドと布団を敷く。
夜に敷き、ベッドは畳んである。
それまでは畳にゆったりと横になって落ちつくのだ。山田勇も畳に横になって庄司佳織はいるのか考えた。
会いたい。
庄司佳織は女子寮にはいない。台原のどこかに住んでいる。
未来か。山田勇は卒業したあとを想像してみた。山田勇は福島県に帰るのだろうか?だとしたら庄司佳織は台原だから仙台市と福島の遠距離になる。庄司佳織がそれを言っていた。上手くいくわけがないという考えが庄司佳織の応えだ。
山田勇は社会に出て給料も出るから仙台市まで来れる筈だ。庄司佳織だって社会に出て給料も出るから会えるだろう、と思う。甘いのかな、と山田勇は思う。社会に出て会社で何かしら乗り越えていかなくては悪いのかもしれない。そうしているうちに庄司佳織の事を忘れていくのだろうか。
そこまで思って悲しくなった。
山田勇は畳から起き上がりスリッパを履き部屋を出た。ホールと舎監室にきて生協に行くことにした。
「すいません。生協行ってきます」
舎監に断り靴箱へ。
雨はやんでいた。
生協の自販機で珈琲を買う。
山田勇は椅子に座って煙草を一本咥えて火をつけた。缶珈琲の缶を開け飲む。
のんびりと煙草と珈琲を嗜む。
「山田さん?」
同じ障害者訓練校の女子寮に在住している菰野理花(こもの りか)が来ていた。ビニール袋に菓子が入ってるらしく買い物ついでに煙草を吸いに自販機に来たのだろう。
「菰野さん、買い物?」
「うん。山田さんは?」
「暇つぶし」
「嘘だね、失恋したからでしょ?」
「諦めてはいない」
山田勇の言葉に菰野理花は椅子に座って煙草を一本咥えて火をつけた。
「庄司さんは、やめなよ。」
菰野理花は言った。
「どうして?」
「女子同士でもあまり仲良い人いないよ」
「美人で同性から嫌われるパターン?」
「そういうんじゃないから、最初は話していたけど長く関わらないの」
菰野理花は多少怒るように言った。
庄司佳織の意外な一面だった。
「遠距離の恋人ってなったら続くと思う?」
山田勇は聞いてみた。
「好きあってれば」
菰野理花は言った。
庄司佳織は大人なのかもしれない。菰野理花を含めて結構、好きあってれば続くという意見が多いのだろう、若いからかもしれなが。
山田勇は菰野理花とごく普通の会話を続る。
菰野理花は話しやすく魅力的だと山田勇は思った。
「帰るかな」
山田勇は煙草を灰皿にもみ消す。
「このあと暇なら駅前にでも行かない?」
菰野理花は言った。
山田勇は驚くけど暇だったし行くことにした。どうして山田勇を菰野理花は誘ったのかは気にしない。
恋じゃないでしょ?友人みたいな感覚だと理解する。
山田勇と菰野理花が一度寮に準備しに戻り、それから二人で地下鉄に向かった。
そのところを庄司佳織が見ていたのを山田勇は気づかない。
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