初めての臨場

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 資料の整理を終えて遅れた昼食を取ろうと、さっき買ってきたパンの袋を開けようとしたその時、刑事課の課室に設置されている無線機が東署を呼んだ。   「県警本部から東署」   「東署です、どうぞ」   「安否確認、異臭がする、郵便受けに    新聞が溜まっている、現場向かえ…」  できることなら聞きたくない内容だったから知らないふりをしようとしてると、同じ鑑識係の班長つまりは私の上司…いや、師匠にあたる多聞 大文(たもん ひろふみ)警部補が司令書を持ってデスクに戻って来た。 「早川、出動するぞ」  私はその言葉を聞いて手にしていたパンをデスクの上に置いた。  避けては通れない鑑識係員の宿命。そして私の一番苦手としている業務、それがご遺体の取扱だーー。  警察官が死体取扱をするのにはちゃんと根拠になる法律があって、法的に人の死亡を決めるのは医師の業務であって、それを経ないで発見された死体はすべて変死体として警察などがその原因を捜査することになっている。難しいことは恥ずかしながら鑑識係員としての年数が浅いため勉強不足ということなのだけど、その根拠は簡単にいうと殺された可能性の有無は調べなければならないということだーー。  今回の通報内容はそこに住む独居の居住者方から異臭がするということで屋内を確認したところ、屋内で既に亡くなっていた人がいたというものだ。  発見時には死亡していたということは、つまりどのように亡くなったのかが分からない。最悪の場合、殺害された可能性はゼロではない。だからそこは警察の捜査の対象になる。  交番で勤務していた駆け出しの頃、何度かご遺体を取り扱ったことはある。でもそれは最初の入り口だけで、原因動機もはっきりしたものばかりだった。そして今回、鑑識係員としてそれもある程度日数の経ったそれを取扱うのは初めてだ。 「用意するのは、セット一式とカメラと収納袋と……」  そう言いながら班長はデスクの上にある5個入りの菓子パンをかじりながら出動に必要なものを指示する。今から行く現場はすぐに終わらないから短い時間を利用してお腹に何かを入れておくのは刑事の基本。それが分かっていながら昼食をとりそびれた自分に反省する。 「それと、早川。何も食ってなかったらとりあえず何か入れとけ」  ぶっきらぼうな言い方ではあるけど、班長は部下の様子をよく見ていて、さっきの現場から帰ってきてからまだ何も食べてないことをしっかり把握している。私が出動の道具を用意している間に班長は袋に入った残りの菓子パンを私に渡して車の方に向かっていった。 「了解です」  現場までの道中で食っとけと言ってるのだろう。私はそれも荷物と合わせて班長の後を追いかけたーー。
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