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穢れの雨、降って、乾いて
噂に聞いた通り、ネズミー界はマジカルでドリーミーでファンタスティックだ。摩訶不思議な味のする食べ物の屋台、ネズミー王を称えるきらびやかなパレード、くるくる回ったり、ぴょんぴょん跳ねたり、滝を滑り堕ちたりする愉快な乗り物――
「キングよ、こんどはあれに乗ってみよう」
光の王が悪魔の禿げ山(注:某ビッグサンダーマウンテンのようなもの)を指さす。山あいを駆け抜けるトロッコからは、人民らの悲痛に満ちた阿鼻叫喚が聞こえてくる。
その壮絶な悲鳴を耳にし、キングの青黒い唇がかすかに震えた。
「……何だ、おぬしは魔王のくせに悪魔の山が怖いのか?」
「……ば、ばっか言ってんじゃねェよ! あの程度の禿げ山、魔界には山ほどあるわぃ!」
「じゃあ乗ろう。愉しそうだ」
光の王は気乗りしないキングの腕を引っ張り列に並ぶ。いつも強がりばかりを言うキングを、少し虐めてやりたくなったのだ。
お目付役らはスパイシーな骨つき肉にかぶりつき、遠くからふたりの背中を見送った。
「うわぁ……キング、大丈夫かなぁ。魔界の血の滝スライダーだってまともに滑れないのに」
「……すみません、うちの陛下はスピード狂でして。ときどき光回線に乗って天界を飛びます」
案の定、悪魔の禿げ山にキングの阿鼻叫喚が響き渡った。
メイク以上に顔面蒼白になったキングが、光の王に支えられながら山裾に降りてくる。うっ、とちいさく呻き、手のひらで口を覆った。
「……キングよ、気分が悪いのか?」
光の王が前にしゃがみこみ、キングに声をかけた、その瞬間だった。
青黒い口元から、見るもおぞましい闇の吐瀉物が吐き出される。それが容赦無く、光の王ご自慢の純白の衣に穢れの雨のように降りかかった。
――やべ! よりによってこいつの服に!
光の王は、白き衣のおぞましい汚れを目にし、見目麗しい眉をかすかに歪めた。無言のまま立ち上がり、くるりとキングに背を向けると、どこかへ足早に歩いていく。
――あ、終わった。
ぽつんと取り残される。キングはよろよろと近くのベンチにへたりこんだ。
――あいつが大嫌いな、臭いと汚いの最終形態だもんな。浄めの神殿まで持っていかないと、衣の汚れも落ちないだろうし。
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