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突然、世界でひとりぼっちになった気がした。愉しげなカップルのすがたが目に痛い。必死に歯を喰いしばり、両膝のあいだに顔を埋めた。
――絶対に嫌われた。もうヤダ。魔界に帰りたい。こんなことになるなら、下界になんて降りなければ……
「やっべ。キングの背中から極悪の瘴気が噴き上げはじめてる。闇の魔物を呼び出すつもりだ!」
「ど、どうします? ここは偶然をよそおい、助けにいきますか?! うわっ、この蒼天に雷雲?!」
「夢と魔法の世界、存亡の危機なり! マジで無に帰す5秒前発動だ!」
「わお、ジーザス!」
骨つき肉を放り出し、お目付け役たちがあたふたと駆けつける。だがひと足先に光の王が戻ってきた。
慌てて身を翻し、女子高生の軍勢に紛れ込む。
「おぬし、大丈夫か?」
その声に、キングは顔を上げた。ポカリなんちゃらという聖水の容器を、光の王が突き出している。
「……目が真っ赤だが、泣くほど苦しかったのか? これを飲んで少し休め」
「――あ、ありがと」
聖水を受け取り、蓋を開ける。喉を鳴らして聖水を呑むキングに、光の王は気遣うような視線を向けた。
「無理をさせて悪かった。少し苛め過ぎた」
そう言って、見目麗しい目元に困ったような笑みを浮かべる。
「……その服、本当にごめん。臭いよな」
「いや、いい。珍しく加虐心など起こしたから、罰が当たったのだろう」
罪人を包み込むような、慈悲深く、神々しい笑み。キングの青黒い目頭が熱くなる。
――もう絶対に赦してくれないと思ったのに。こいつ、やっぱ神だ。好き。
ネズミー界の頭上の空から雷雲が去り、大きな虹が架かる。
「……俺が言うのも何だけど、本当に鼻がもげるほど臭いな」
「ああ。闇の一切合切を詰め込んだような酷い臭いだ。どこかで新しい服でも買おう」
それを聞いてキングは元気よく立ち上がった。
「そうだ! 俺が買ってやるよ! たんまり小遣いもらってるしさ!」
「さっき店で見かけた、ネズミー王の肖像入りのTシャツか?」
「そうそう! あれちょっと欲しかったんだよね。俺もお揃いで買っちゃおうかな!」
お目付役らは、大災害の危機を乗り越えたふたりのようすに、安堵の息をもらした。
「光の陛下が男前過ぎて、俺も惚れちゃいそう。やっぱ男の甲斐性って包容力だよねー」
「ちゃっかりペアルックではないですか。別れの危機を乗り越えて、アツアツぶりが加速しちゃったようですよ」
「まあペアルックと言えば、俺たちもだけどな!」
四人のお目付役らは、一足先に購入したネズミーTシャツに身を包んでいる。
「お揃いコーデって気分上がりますね!」
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