捕らわれたのはどっち?

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息つく暇もないほど仕事をした日曜の夜。 人混みを掻き分けながら、オレはとある場所を目指して歩いていた。 ここほど独特な匂いのする街をオレは知らない。 この眠らない街は、まるで異世界。 せわしない日常を忘れるには、最高の場所かもしれない。 しばらく歩いていると、目的のビルに辿り着いて。 エレベーターで6階へ向かうと、オレは慣れた手つきでえんじ色のドアを開けた。 「いらっしゃーい」 店中に響き渡るいつもと変わらない元気な声。 その声になんだかホッとする自分がいた。 「あら~、ハチ! 久しぶりじゃない」 そう言ってすぐにカウンターにおしぼりを置いてくれるイッシーさん。 オレはゆっくりと椅子に腰を下ろした。 「そうだね。二ヶ月ぶりくらいかな」 「最近来ないからどうしてるんだろうって思ってたのよ。仕事が忙しかったの?」 「うん、3月4月は予約が多いんだよ」 「あー、そうよね。入学前や入社前に髪を綺麗に整えたい人は多いだろうしね」 「今日で一旦落ち着きそうだから、久しぶりに来てみたよ」 「そうなのね。ゆっくりしていって。いつものでいい?」 「うん、お願い」
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