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そうこうしているうちに、そのちゃんのカットが終わって。
彼女は椅子から立ち上がった。
「やっぱり瑛斗君のカットは最高ね」
鏡に映る自分を見ながら、嬉しそうなそのちゃん。
「ありがとう。よく似合ってるよ」
「うん、確かに似合ってる。
なんか瑛斗がカットするようになってから、苑香の印象が変わった気がする」
突然、悠真がそんなことを言った。
「それ、職場の人や友達にも言われるの。
なんか前より雰囲気が柔らかくなったねって」
「あぁ、それはそう見えるようにカットしてるから。
そのちゃんはさ、パッツン前髪のボブスタイルより、おでこを出して毛先も梳いて軽くした方が顔が優しく見えるんだよ。
オレは本来、そっちが本当のそのちゃんだと思うよ」
オレの言葉に、なぜか顔をくしゃっと歪めるそのちゃん。
「やだ。
そう言われるとなんか泣きそう」
そう言ってそのちゃんが、急に目をウルウルとさせる。
「えー、なんで泣くのー?」
オレ、なんか泣かせるようなこと言っちゃったのかな。
「私ね、仕事でずっと必死に走って来たから、強くなるしかなかったんだよね。
だから、顔も雰囲気も怖くなってたんだと思う。
でも、結婚して子供が生まれてママになったら、なんだか顔つきが優しくなって来た気がするし、今の顔が好きなんだよね。
こっちが本来の私って言ってもらえて、すごく嬉しい……。
もう瑛斗君ってば、どんなカリスマ美容師よりもすごい~」
「だろ?
瑛斗は、“人が本来持っている魅力を最大限に引き出す美容師”だから。
俺の恋人、最高でしょ?」
得意そうに微笑む悠真。
「ほんと、最高よ」
そう言ってそのちゃんも、にっこりと笑った。
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