2022.11.16 結婚相談所のお話 3. 出会いと別れ

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2022.11.16 結婚相談所のお話 3. 出会いと別れ

活動期間が3年も経過すると、自分が三十路を越え、当然のように申し込まれる数が激減した。 月にひとりかふたり、連絡が取れればいいほうで、それも電話した時点でお断りとなる。 たまに会えても「あぁこれは駄目だなぁ』と思うばかりで、すっかり停滞期に入っていた。 そんな時、出会ったのがひとつ年下の相手だった。 夜間の大学を出て、SE職に就いていた。まじめな印象で優しかった。 自分の次弟に雰囲気と風貌が似ていたため、最初から性格も似ているだろうという思い込みがあった。 映画見に行ったり、ライブに行ったり、旅行に行ったりした。 私の自宅にはよく遊びにきていたので、両親は相手のことを知っていた。 私の父親と会って話をしていたせいか、一線を超えるような手出しのしかたはしなかった。気遣ってくれて優しいと思ってた。 順調にお付き合いは続いて、一年経った頃に結婚の話を進めることになった。 両親ともに顔合わせで初めて相手の両親と会った。それまで話に出ることがなかったし、会わせてもらったこともなかった。いまとなっては父親のほうは印象が薄くて、どんな人だったか全然覚えていない。 相手の母親はふつうの人だったけど、すこしだけ気が強そうな印象があった。「よろしくね」とブランド物のタオルハンカチをもらった。 結婚式場を見て回るようになり、会社の人を呼ぶのに都内がいい、と言われて、それもそうか、とお茶の水の式場を仮押さえした。 内金は、私が支払った。 ところが。 突然、私の実家の隣駅にマンションを買った、と言われた。 内見に行こうと言われたので、ついて行った。 横浜は、地形的にアップダウンが激しい地区がある。 駅の真裏に新しく建ったマンションだった。丘陵地の尾根部分に出入り口があり、そこから窪地となる斜地に張り付くように建てられていた。 内装を見たが、天井や壁に不自然な凹凸が走っていて、やたらと目立つ。 一戸建てばかりで暮らしてきたのでマンションの構造はよく知らないが、補強なのか部屋の壁から柱のような四角のでっぱりがあったり、天井から30センチも縦横に飛び出すような目立つ梁のある建物は普通なのだろうか、と異質に映った。 聞けば、私と結婚するまでの間、実家から妹を呼んで住まわせるという。 え? それって……おかしくない? そもそも、こんな大きな買い物をするのに相談もないのってどうなんだろう。 訊ねてみたけど、ここを契約したのは結婚が決まる前だったからと言われた。 それにしたって1年間も付き合っていて、購入したことすらひとことも聞いていない。 急激に、不審を(いだ)いた。 今まで目をつぶっていたことに、問題点がいくつもあったことに気づいた。 こちらが開示した情報に対して、向こうを知らないままでいたこと。 友だちに紹介してもらったことがない。 家族である妹のことをよく知らない。 両親にも一度だけしかあっていない。 相手を取り巻く環境は、ほぼ知らずにいた。 仕事についても、あまり多くを話してくれたことがなかった。 重度の喘息を持っていて、ふだんからかなり強い薬が必要で、それでいて管理についてはズボラに近く、吸入薬が手放せないこと。 妹はさらに喘息がひどく、入院を繰り返していること。 両親は別々に暮らしていて、母親が大嫌いだとかなり強い調子で言う。 結婚前に、喘息の管理をしたほうがいいんじゃないかと言ったことがあるのだけど、1ヶ月くらいは続いたものの、気づいたら面倒だからと辞めていた。 嗚呼……まぁね……そうだよね、30年生きてきて管理できないものが、急にできるわけないもんね……性格が矯正できるわけがないもんね……散々思い知らされてきたもんね……そうだね、無理だね……。 いくら好きだと言ったとしてもだよ? 一年ぽっち、人生に関わっただけのポッと出の女が、口出して思い通りになると思うほうが虫が良すぎるもんな。 はあぁ〜〜〜〜〜〜〜…………。 これは…………。 無理じゃね? いろいろ調べたんだよね。 マンション購入してるから、共働きになる。 子どもが生まれたら、高確率で遺伝する。 しかも重度の喘息。 悩んだ。 病気で相手を拒絶するのって、汚い人間の考えることだ。 でも相手だって、私の気持ちをないがしろにしてる。 どうなんだろう、常識的に考えても、この仕打ちはナイと思う。 当時のライブ友に相談したら、『大きな病気を持ってる人はね、自分の病気を盾にして他人に甘えるんだよ、よく知ってるでしょ?』って言われた。 そりゃよく知ってる。自分も視覚に障碍がある。 見えないから、見えないことを理由に『できないことがある』と他人に甘え、許してもらおうと考える部分がある。 同じことだ、と言われた。 腑に落ちた。 甘えてる人を許す必要はない、いずれ共倒れするから、と。 別に悪いことじゃない、捨てたっていいんだよ、と言われて目が覚めた。 続く
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