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とんとん拍子に話は進んで、半年を待たずにおたがいの結婚の意志がまとまった。
最初に進行性の病気で、目に障がいがあるとは伝えていた。
病名は円錐角膜。角膜が突出する原因不明の症状が、30歳を過ぎる頃までゆっくりと進行する。日本での発病率は、約1万人に1人程度、男女比はおよそ3:1で男性が多い。
私の場合、裸眼だと右目は重度なので、1センチの距離に近づけても識字できない。左目は中度なので、10センチまで近づければ読める。
角膜が歪んでいるので、メガネでは視力矯正できない。専用のハードコンタクトレンズを使用すれば日常生活は送れる。
角膜の経年劣化でレンズが将来的に入れられなくなる可能性があり、そうなればふつうの生活は不可能となる。(手術する選択肢はある)
コンタクトを入れても右目は物が三重に見え、光が乱反射するので昼夜ともに見えづらい。左目は酷使しすぎてレンズによる角膜の摩耗で視界がうっすら白化している。飛蚊症とともに左目の中奥に網膜の歪みがあり見えにくい部分が生じ、見える部分で見ようとするため常に視線が揺らぐせいで、めまいや頭痛の症状が出ることがある。
それから、婚約破棄をした経験があるという話は、もうすこしあとになって告げた。
居酒屋でお酒を飲んでいる時にその話が出て、彼が
「俺はね、めぞん一刻(高橋留美子著)の響子さんが好きなんだよ」
と言い出した。
「あの作品の最後のほうの話で、五代くんが響子さんの前夫である惣一郎さんの墓前で、語りかける場面があるんだよね」
私はめぞん一刻の漫画とアニメは観てなかったので、詳しいところはよくわからないのだけど。
彼の思い出語りから抜粋すると、こんな場面があるそうだ。
・五代くんの背後で響子さんが見守っている。
・五代くんは、惣一郎さんの墓前で宣言する。
「響子さんは惣一郎さんと過ごした大事な時間があって、その時間があったからこそ、いまの響子さんがある。だから響子さんのなかにいる惣一郎さんを引っくるめて、まるごと響子さんをもらいます」
(正確なセリフは、「初めて会った日から響子さんの中に、あなたがいて…そんな響子さんをおれは好きになった。だから…あなたもひっくるめて、響子さんをもらいます」。)
俺はあのシーンが大好きでねぇ、と泣くんですよ。
いまだに高橋留美子の作品は、『うる星やつら』と共に大好きらしいんだけどね。
なんでその話が出てくんの、とも思わなくもなかった(破談だから再婚じゃない、ってそうじゃない)けど、気持ちはすごく伝わった。
同時に「俺はべつに自分の子どもでなくても大丈夫」とも言ってた。
「目が見えなくなっても、俺が目のかわりになって最後まで面倒見るから」
いったい、どれだけ心が広いんだ。
続く
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