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三.
「待ってよー!
あなたたち、ガランティーヌにしたらどう?
美味しいの?
それとも普通にコンフィの方がいい?」
至って真剣な、探求者の表情でムクドリを追う少女が問いを投げかけるが、当の薄い黒毛の小鳥たちは、特徴的な黄色い嘴から警戒の鳴き声を発し合いながら、あっという間に飛び去っていった。
少女は、彼らの消えた空をしばらく残念そうに眺めていた、が、ふと鼻をひくつかせ、今しがた出てきた火葬棟を振り返った。
昨今にはほとんど見掛けることも無くなった旧式の高煙突から、ほのかに煙が立ち上っている。
と共に、何やらこうばしい芳香が辺りを包み込んでいた。
その匂いに、大人たちが次々に目頭を押さえ始める。
「おぉ……『ディユ・ディ・ゼルブ』に、ご冥福あれ……!」
「あなたがひとかたならず愛したエルブは、それ以上にあなたを愛しておりましたぞ……!」
およそどこの国や地方でも、棺桶に、死者が生前大切にしていたものなどを入れる風習がある。
彼、『ディユ・ディ・ゼルブ(ハーブの神)』にとってそれは、世界中から集めに集めた、あまたのハーブたちであった。
大人たちはハーブの神を褒め称える言葉と共に、大袈裟に嗚咽し始めた。
そんな彼らを尻目に、少女は広い庭の真ん中で、鼻から大きく息を吸い込む。
そしてその胸を満たすかぐわしい気体に、
「ふ、ふ、おじいちゃん、なんだか美味しそうね」
と愛おしげな笑みを浮かべた。
だが、やがて、「でも」と首を振り、眉間に皺を寄せる。
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