18.大切なんだからしょうがない。

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「キョウヘイって、こういう場所にいても平気なの? 恥ずかしいとか思わない?」  診察が終わり平の隣に座る愛莉が訪ねた。  愛莉が指す「こういう場所」は婦人科のことだ。  当然患者は女性ばかりなので、待合室にいる男性は平一人。それでも本人は気にする素振りはない。 「仕事柄いろんなところに行くからな、全然気にならねえ」 「ふーん、そういうもん」  その後愛莉は、遅いだの早く遊園地に行きたいだの、ぶーぶー文句を垂れていた。  自分の身体に関心がない、聞き分けのない子供。平はその小さな手を、抑え込むように握りしめる。 「もう少し、いい子にしてろ」  平が耳元で囁けば、愛莉は嘘のように静まり返る。青白いライトの下、長い髪から覗く耳の縁がほんのり赤い。  ようやく診察室の扉が開かれ、薄ピンクのナース服を着たふくよかな女性に名前を呼ばれる。  すると愛莉よりも先に、平が立ち上がる。  診察は別としても、結果は一緒に聞くと決めていた。  入室するとすぐに、ゆったりとした黒い椅子に腰を据えた白衣の女医と出会う。  痩せ型で黒髪のショートカット、年齢は四十代後半といったところだろうか。机に置かれた何台ものパソコンを見ていた彼女は、人が入ってきたことがわかると身体の向きを変えた。  部屋の出入り口に立つ二人を見た女医は、少し不思議そうに首を傾ける。  背が高く存在感のある平と、そのそばに立つ小柄な愛莉。  父親にしては歳が近すぎる。かといって兄にしては離れている。見た目の違いからも血縁関係があるとは思えない。
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