2.転がり込んだからしょうがない。

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 そしてキッチンと繋がったフローリングの部屋の隅に設置されたゲージに飛び込むと、ふわふわしたクッションの上でささみ棒を貪り始めた。しっかり横目で愛莉を見ている。 「そんな警戒しなくても取らないってば」 「外だと静かなんだけどなぁ、自分のテリトリーに他人が入るのが嫌らしい」  腕を組みながらため息混じりに話すキョウヘイ。  あずきが大人しくなったところで、愛莉はキョロキョロと周りを見回す。  キッチンにはダイニングテーブルと呼ばれるものはなく、あずきのゲージが置かれた部屋に小型テレビとローテーブルがあるだけだ。その隣には襖で囲まれた部屋があり、ここで寝起きしているのかと思われた。  2DKで平米数もそう大きくない。しかし物が少ないせいか、全体的に広く感じた。  ――が、殺風景というわけではない。  なぜならその辺に脱ぎ捨てられたシャツや靴下、飲み残した缶ビールなどが放置されていたからだ。  生活感に溢れている。  微かに漂う、苦味と鼻をつく匂い。  タバコは現在を、酒は過去を思わせる。 「……お酒、けっこう飲むの?」 「いんや、たまーにだな、突然呼び出しがかかっても困るし……」  隣に立つ愛莉の横顔を見下ろしたキョウヘイは言葉を切り、ある可能性を考えた。  悲しみとも怒りとも言い難い、あきらめに似たような無に近い表情に、酒にいい思い出がないのかもしれない、と。
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