2.転がり込んだからしょうがない。

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「つーか俺ザルだから、飲んでも酔えねえし結局無駄なんだよなぁ」 「そう……なんだ?」  キョウヘイが酒に呑まれるタイプではないことを聞いた愛莉は、幾分か安心した表情を浮かべた。 「それにしても、散らかしすぎじゃない?」  愛莉は警察官に幻想など抱いていないが、それでも一般人よりは清潔に整えられた部屋で生活していると思っていた。  じとっと見上げる愛莉に、キョウヘイは「そうかあ?」と返すだけで気に留める様子もない。  緩んだネクタイに一つボタンが外れたカッターシャツ、明るい場所で見るとますますスーツはよれており、ちくちくした髭や跳ねた髪も目立った。  かといってそれで愛莉の熱が冷めるわけではない。それどころか使い古された家と、汚された空間に親近感を覚えてしまう。愛莉の中に眠る、苦い懐かしさに添うように。 「そんなことよりも風呂入るか、入らねえなら早く寝ろ。言っとくけどうちには女物の着替えなんかないからな」 「じゃあキョウヘイの貸して」 「おまっ、呼び捨て……まあ、別にいいけどな」  家に来た途端敬称も捨てた愛莉に、キョウヘイは短く息を吐くと背広を脱いでポーンと床に放り出した。 「……ねえ、なんでそこに出しっぱなしにするの? ハンガーあるんでしょ?」 「どうせまたすぐに着るし」  そういえば、と愛莉はキョウヘイとマメタの別れ際の会話を思い出していた。「また数時間後」と言っていたことを。
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