3.好きなんだからしょうがない。

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 屈めていた身体を起こし横目で鏡に映った自身を確認した平は、ほおぉ……と感心した様子を見せた。 「へえ〜すげえ、手先が器用なんだな。美容師とか向いてるんじゃねえか」  珍しくスタイリングされた毛先を人差し指と親指でつまみながら言う平に、愛莉はあきれて肩を上下させた。 「なに言ってるの、私がそんなのなれるわけないじゃん」 「なんでだよ、まだ若いんだしこれからいくらでも可能性はあるだろ」 「私にはないの。こういうことだって、小さい時ずっと家に一人で人形の髪いじりしてたからできるようになっただけだし」  愛莉の言葉を、平は一言一句逃さず聞いていた。  ずっと家に一人ぼっち。ボロボロに使い古された人形の髪を、背中を丸めながら黙々と編む少女の映像が脳裏に浮かんだ。  三人兄弟の上と下に挟まれ、やたらと敷地の広い田舎で育った平にとって、その光景はあまりに寂しい。  家族が多くて煩わしいこともあったが、振り返ればいてくれてよかったと思うばかりだ。  その経緯も踏まえた上で、定型にはなるがやはり行き先はそこしかない。そう考えた平は、重い口を開いた。 「……あのな、愛莉ちゃん……帰る家がない子を、ちゃんと見てくれる場所があってだな」  愛莉は平が言わんとしていることを即座に理解すると、大きな瞳を細めた。   「じどーよーごしせつ、でしょ? 知ってるよそれくらい、聞いたことあるし」 「だったら」 「嫌、ぜーったいにそんなとこ入らないから」  腕を組みそっぽを向く愛莉に、平は頭を悩ませる。ただでさえデリケートな話、年頃の女の子ともなれば、ますます対応は難しくなる。
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