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派手な電飾に囲まれたお城に見立てた安っぽい建物。大きな文字で休憩三千円と記された看板を横切り、門をくぐる。
スーツ姿の男は慣れた手つきで受付で鍵を受け取ると、急かすように愛莉をこまねいた。
中肉中背、短くも長くもない黒髪の、どこにでもいるようなサラリーマン風の男。
しかし愛莉にとっては外見なんてどうでもいい。覚える気もなければ選びもしない。必要であれば誰にでもついて行く。
うまくいけば、当面の生活費を期待できるかもしれない。
横に並んだ男を盗み見ながら、愛莉がそう心の中でほくそ笑んだ時だった。
背後から異様な圧が近づいてきたのは。
開いたエレベーターに乗り込もうとした男の身体は、ある力により後方へと引き戻された。
何事かと愛莉が振り向いた時には、男の腕は後ろからやって来たもう一人の男の手に掴み上げられていた。
「ちょっと待った」
深みのある低音が、緊張の糸を巡らせる。
愛莉と来た中年男性より頭一つ分高い背、寝癖をそのままにしたような無造作に跳ねた黒髪、ダークグレーのよれたスーツ姿の彼は、射抜くように目の前の人物を見据えていた。
「ずいぶんと若いお嬢ちゃんとこんなとこでなにするつもりだ?」
意味深なその言葉に、顔を青くした男は身体を戦慄かせると、突如走り出そうとした。
――が、それは叶わなかった。
踏み出そうとした足を足で制され、方向転換に失敗した男は前のめりに体勢を崩した。
長身の彼は倒れた男の両腕を背中でクロスさせ、体重をかけ床に押さえつけた。
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