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18.大切なんだからしょうがない。
雲も風もない沈静を保った気候。
平の気分に反し、外の様子は落ち着き払っていた。
この辺りで一番大きな総合病院は、国内でも有数の規模を誇る。
そんな施設が近くにある環境に、平はひとまず感謝した。
受付をする際、愛莉は個人情報を記入するように用紙を渡された。
名前と生年月日、電話番号まで書き、住所の欄で手を止める。するとこうなることを予測していたように、さりげなく添えられるメモがあった。
達筆で書かれた住所。
チラッと隣を見上げると、差出人は頷く代わりに優しく微笑んだ。
愛莉は礼を言うでもなくさっと用紙に視線を戻す。胸の辺りがぽわんとあたたかくて、むず痒い。平の思いやりは愛莉にたくさんの初めてを与える。それが渇いていた彼女を、どんどん満たしていくのだ。
保険証があれば、わざわざこんな手間を取らせる必要もないのにな、と平は思う。
金がかかるのはかまわない。ただ、人並みのものを持たせてやりたい。
自分が書いた文字を目でなぞり、一生懸命真似る愛莉に、平の庇護欲が駆り立てられた。
病院の待ち時間というのはなぜにこうも長いのか。
特に検査結果を気にしている平にとっては苦痛に感じる。白い壁面に囲まれた広い待合室、ライトグレーの椅子に腰かけた平は足を組み替えてみたり、腕時計や周りの様子を確認したりしている。
普段のんびりしている平はちょっとしたことで苛立ったりしないが、今回ばかりはソワソワしていた。
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