3.好きなんだからしょうがない。

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 千円札の肖像画が、目を丸くする愛莉をじっと見ている。   「少なくて悪りいけど、とりあえず今日の朝昼晩の飯代だ。返すとかは言いっこなしな」  頭の上から落ちてくる言葉を受けながら、愛莉は遠慮がちに手を伸ばした。 「鍵が俺のしかねえからな、外出するなら短時間、道を右に曲がってしばらく行けばスーパーとかコンビニがあるから適当にそこで調達しろ。家にいる時はちゃんと戸締まりしとくんだぞ」  食事のことを考えてくれた上に在宅時の配慮までする平に、愛莉の胸にポッとあたたかな灯がともる。  両手を添えて持った紙幣から、愛莉はしばらく視線を外せなかった。  そこら中に流通している見慣れた一枚が、愛莉にとってはとても貴重に思えたのだ。 「……ありがとう」  自分でも驚くほど、素直に感謝の声が出た。  愛莉の辞書から消えかけていた文字が、優しく舞い降りて色濃く縁取る。  平は少し驚いたように目の幅を広げたあと、嬉しそうにくしゃっと笑った。 「なんだ、ちゃんとお礼言えるんじねえか、偉いな愛莉」  そう言ってポン、と愛莉の頭に手を置いた平は、数秒後自分の行いに気がつく。  ――しまった、つい部下にやる癖で。  心の中でそう思った時にはもう遅い。  先ほどまで大人しくしていた愛莉が、潤んだ瞳で平を見上げぷるぷると打ち震えている。  今にもなにかが爆発しそうだ、と察知した平は顔を引き攣らせたじろいだ。
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