3.好きなんだからしょうがない。

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「キョウヘイ、お返しのチュ」 「さいなら〜!」 「あー! 待ってよー!」  平は飛びついてくる愛莉をかわすと、すたこらと家を出る。が、追いかけてきた愛莉が玄関扉を開け放して手を振っていることに気づくと、さすがに焦った。それもそのはず、少女は今、いわゆる彼シャツ状態なのだから。 「バッカ! その格好で出てくんな!」 「行ってらっしゃーい!」  平の心配などどこ吹く風、愛莉は人目も憚らず満開の笑顔で片手を左右に揺らしている。  絹のように繊細で鮮やかな桃色の髪を初秋の風に靡かせながら、真っ白なワイシャツを纏って立つ美少女。  平にはこの景色が合成か、嘘の世界にしか考えられなかった。  ――あんまりよくなかった、かね。  駅に向かう道なりを進む中、平はふと独りごちた。  金銭のやり取りは、好まない。どちらかに恩や念が生まれても困るからだ。  しかし今すぐ施設に入るには厳しい状況の中、今日一日、愛莉がどうやって過ごすのか気になった。  家の中にはろくな食料がない。かといって買ってきてやろうにも、仕事柄いつ帰宅できるかもわからない。  せめて腹を空かせて辛い思いはさせたくないと感じた平は、先ほどの行動に出たわけだ。  最低限の額にしたのは、あまりたくさん与えるのは教育上よくないかと気遣ってのことだった。  それにしても、誰かに見送られるなど一体いつぶりだろう。  愛莉の高い声と手を振る姿が、残像のように平の心に優しい影を落とした。
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