4.動き出したんだからしょうがない。

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「はあぁー、男くさっ、ちゃんと洗濯してるのかなぁ」  口では文句を言いながらも、平の枕に顔をぐりぐり擦りつけ胸いっぱい深呼吸する愛莉。  そんな彼女を傍らでじっと見つめるつぶらな瞳があった。  ふとそれに気づいた愛莉は、寝転んだまま視線をスライドさせる。  するといつの間にか愛莉の真横に来ていたあずきが、行儀よくお座りしてなにかを訴えていた。その口には犬のワッペンがついた靴下が咥えられている。色はまたもグレーだ。   『ええやろ、これ』  愛莉にはあずきがそう言っているように見えた。  目は口ほどに物を言う。  初めて動物の気持ちが伝わってきた愛莉は、ゆっくりと身体を起こすと改めてあずきを見た。 「……あんたも、キョウヘイのこと大好きなんだね?」  あずきは「わん」と返事をする代わりに「ふんっ」と荒い鼻息を漏らした。口が塞がっているので吠えられなかったのだろう。  一人と一匹は互いの輝く瞳に自身を映した。  そして同時に頷くと、そっと手と手を合わせた。愛莉とあずき、記念すべき初の『お手』である。  平への愛という共通点を持った少女と雌犬は、種族の壁を越えわかり合ったのだった。
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