4.動き出したんだからしょうがない。

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 すると一足先に廊下に出ていた隣人に気がつく。  白髪混じりの短い髪をした七十前後の男性は、ドアに鍵をかけているところだった。  愛莉の気配を感じた彼は細い目を向けると「ああ」と声を漏らす。  近所を散歩でもするのだろうか。クリーム色のトレーナーに茶色の綿パンを履いた老人は、荷物を持たず手ぶらだった。 「どうりで夜中に賑やかだと思ったら、こんな可愛らしいお客さんが来てたんだねぇ」  古い賃貸アパートは壁が薄いため、昨夜の騒がしいやり取りはほとんど筒抜けだった。  愛莉は挨拶や謝罪をするでもなく、煩わしそうに目を逸らしている。 「おや、あずきちゃん、散歩かい? いいね、キョウヘイくんが忙しくてなかなか連れ出してやれないと言っていたから、きっと喜ぶよ」    平の愛称がアンテナに触れると、愛莉は若干の興味をにじませた瞳で彼を見た。 「……キョウヘイと、仲いいの?」 「仲がいいっていうか、ここの住人は大体キョウヘイくんにお世話になってるからね、困った時とかよく相談に乗ってくれるもんで。だから本当は禁止のペットもみんなオーケーしてるんだよ」 「そう、なんだ」  あの平が飼ってはいけない環境なのに、無理を通すなんて意外だと愛莉は思った。  その理由はすぐに明らかになる。 「自分が逮捕した犯人の飼い犬、引き取っちゃう警察官もなかなかいないよね」  鍵を綿パンのポケットにしまいながら言う彼を、愛莉は大きく開いた目で見た。
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