4.動き出したんだからしょうがない。

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「あれ、知らなかった? 身寄りもないしいわくつきだからもらい手が見つからなくて、キョウヘイくんが飼うことにしたって」  愛莉は小さな衝撃を受けた。  一人暮らしが寂しくてペットを飼うのはよくある話だろう。だから平も同じように、ペットショップなんかであずきを見つけてきたのだと思い込んでいた。  飼い主が犯罪者でも動物に罪はない。  頭ではわかっていても、悪人の手垢がついているような存在は敬遠されたのだろう。  犬は飼い主を選べない。子供が親を選べないように。  愛莉は腕の中でくるりと丸まっている小型犬に視線を落とす。  小さくてふわふわで、少し力を入れたら潰れてしまいそうなか弱い生き物。  愛莉はあずきとの接点が増える度、頼りない情が湧くのを感じた。それからそっと窺うように前に立つ人物を見る。 「……あのさ、私がキョウヘイの彼女だって言ったら、信じる?」  愛莉からの突然の質問に、老人は皺の刻まれた瞼を持ち上げ、キョトンとしたあと声を上げて笑った。 「ははは、まさか、キョウヘイくんのことだからどうせ事件絡みかなにかで面倒見てるだけだろう。おっと、そろそろ行かないと、将棋クラブのメンバーの家でお茶会があるからね」  そう言って彼は手を上げると、さっさと愛莉の元を去る。  愛莉は階段を降りていく真っ直ぐに伸びた背中を恨みがましく睨んだ。   「――なによっ、あんなに笑わなくたっていいのに!」  平と恋人に見えないのは、年齢の差か、それともこの奇抜な髪のせいか、躾のなっていない立ち振る舞いか。  いくら恋をしたからといって、ほんの僅かな時間で心を入れ替えられるはずがないのだ。
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