4.動き出したんだからしょうがない。

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 ――これでたぶん、お金は足りるはず。  苦手な計算を何度も頭で繰り返しながら、愛莉はレジに並ぶ。  順番が来て最後に表示された価格が999だったことを確認すると、私天才、と心の中で自分を褒めた。  そんな愛莉が誇らしげに千円札をトレーに入れた時だった。   「あのぅ、お客様、すみません……」  近くでカゴの整理をしていた店のエプロンをつけた四十代くらいの女性が、愛莉に声をかけた。   「店内はペット禁止なので」  今まで意識したことがなかった愛莉は、知らないうちにルール違反をしていた。  リードの輪は愛莉の手首につけられいたが、あずきが小さすぎるためレジに立つ店員からは見えなかった。  買い物中チラチラ視線は感じていたが、そんなのはいつものことなので愛莉は気にしていなかったのだ。  店員に注意された愛莉はわかりやすく不機嫌な顔をした。 「別にいいでしょ、なにも悪いことしないし」 「ですが、規則なので」  引き下がらない店員に、愛莉の短い導火線はあっという間に燃え盛る。 「はあ? 面倒くさいなぁ、ブース!」  愛莉の口から飛び出した暴言に、女性店員は「なっ……」と息を詰め顔を赤くした。  ざわめく店中の眼差しを浴びながら、愛莉は買い物袋を手にするとツンと顔を背けその場をあとにした。
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