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その頃、平は電車に揺られ都心部のビルに来ていた。
場合によっては現場に急行することもあるが、基本的にはここが出勤場所である。
道路沿いの緑に囲まれた角地、三角をやや崩したようなそびえ立つ建物――警視庁。
警察官を志す者なら誰しも憧れを抱いたことがあるだろう、日本最大級にして世界有数の規模を誇る警察組織だ。
広い正面玄関には改札機のようなゲートがある。部外者を入れないための厳重かつ近未来的な設備だ。平はいつも通り入館証を翳すと、ビルの中へ足を進める。
総務課や公安課など多くの管轄に分かれた建物内で、平は迷わず刑事課の看板が上がった部屋に入っていく。
「あ、おはようございます、キョウヘイさん」
「はよっす、キョウヘイさん!」
「おー、おはようさん」
先に来ていた部下たちに挨拶もそこそこに、奥に陣取った自分の席に向かう。その白い机には警部と記された卓上名札が置かれていた。
通常は苗字にこの役職をつけて呼ぶものだが、平と関わりが深い者はみんな愛称で呼んでいる。キョウヘイという呼び名が浸透しすぎているせいで、たまに「鏡警部」と言われると、本人もピンとこないくらいだ。
「あれっ、キョウヘイさん、今日なんか雰囲気違いません?」
一足先に来ていた伊豆倫太郎――通称マメタが、自分の席を立って平に近づいてくる。めざとく髪のおしゃれセットに気づいたようだ。
平は「あ〜」と漏らしながらパソコンを起動した。
「もしかしてあれですか? あの女の子にしてもらったんですか?」
「そういう誤解を生む言い方はいかがなもんかと思うよ」
「大丈夫ですって! 内部の人たちにはすべて報告済みですから!」
平より五つ年下の倫太郎は非常に元気で生真面目だが、たまに空気が読めない時があるので平は若干心配だった。
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