1.出会ってしまったんだからしょうがない。

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「……う、嘘……」 「刑事が嘘ついちゃいかんだろ」  一ヶ月ほど前、愛莉と同じくらいの歳の子が近所のラブホテルで殺害された。  その事件の犯人として目星をつけていたのが、今日愛莉に声をかけたあの男。十中八九間違いないが、今一つ決め手がない。そのため別件で引っ張ろうと様子を伺っていたのだ。キョウヘイはその詳細は語らなかったが「夜には怖いことがたくさん増えるんだぞ」と、警戒を促した。  この辺りでそんな事件があったことを、愛莉は知らなかった。情報源と呼ばれる通信機器も持たず、人伝てに聞くような付き合いもなかったからだ。  仮に知っていたとしても、まさか誰もそんな当たりを引くとは思わないだろう。  愛莉はキョウヘイが来なかった今頃の自分を想像し、ゾクリと鳥肌が立った。 「どう見てもまだ未成年だよなぁ? 何歳だ? あ、嘘はなしな」 「……じゅーなな」  目を逸らしながら答える愛莉に、キョウヘイは、ハァ、とため息をつく。  それは年端のいかない少女に手を出す男に対してのあきれだったが、愛莉は自分へのものだと勘違いした。  ――私、逮捕されるのかな。嫌だな。  面倒事を避けたい愛莉は、詰問や補導から逃れる手立てを探り始める。  しかしその思案は、予想外の言葉にかき消される。 「今回だけは見逃してやるから、あんまり危ないことすんな……わかった?」  愛莉は再びキョウヘイに視線を戻した。  その柔らかな微笑みを見た瞬間、視界が白い煌めきを帯びる。  よく、一目惚れで雷に打たれたと表現するが、愛莉の場合は違った。  羽が舞い降りる。  はらはらと、あたたかな一枚一枚が心に積もるようだった。  天然の緩くウェーブした髪にうっすら生えた無精髭。綺麗だとは言えないが男っぽい風貌の彼が、真夜中の大都会を照らす明かりに見えた。
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