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「あの、キョウヘイさん、その子は……」
「あ〜、この子は被害者、無理矢理ホテルに連れ込まれそうになったらしい」
「そうですか、大変でしたね」
何人かの警察官が代わる代わるにキョウヘイのところに来て、挨拶をしてパトカーに戻っていく。
その間も愛莉はキョウヘイに釘付けだった。
「んじゃあ家まで送ってくから、住所教えてくれるか?」
「ない」
愛莉からの即答に、キョウヘイの垂れ目がパチリと大きくなる。
一拍置いたのちキョウヘイは「そうか」と小さくこぼすと、人差し指でぽりぽりと頬を掻いた。漠然と愛莉の事情を汲み取ったようだ。
「どうすっかな、このまま放っておくわけにはいかねえし、交番で夜を明かすっつうのも……とりあえず今日泊めてくれる婦人警官がいないか当たってみるか」
「あなたがいい」
「――ん?」
頭を捻るキョウヘイは、やたらと輝く瞳と視線がかち合う。
愛莉は爪先立ちになりキョウヘイの顔を間近で見上げていた。
「いや、俺は婦人警官じゃねえし」
「そんなこと見たらわかってるってば! でもキョウヘイさんがいいの!」
キョウヘイは幾度か瞬きしたあと、宥めるように愛莉の肩を叩いた。
「なーに訳のわからねえこと言ってんだ、いいから言われた通りに」
「ダメなら泊めてくれる男漁りに行くから」
これにはキョウヘイは愕然とした。
彼女の愛らしい唇にはあまりに不相応な大胆なセリフ。
しばらく二人が押し問答を繰り返していると、パトカーを見送った青年警官が歩み寄ってきた。
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