454人が本棚に入れています
本棚に追加
/262ページ
「なにやってるんですか?」
「おう、マメタ、それがよう」
キョウヘイはマメタと呼んだ部下らしき彼に、愛莉の言うことを伝えた。
「別にいいんじゃないですか?」
くりくりした目で答えるマメタに、キョウヘイは思わず吹き出しそうになった。なにも口に入っていないのに。
「いや、よくはねーだろ、俺は一応男でだな」
「未成年を保護するって意味では一番安心だと思いますけどね、キョウヘイさんなら間違い起こすはずないですし」
マメタの発言にキョウヘイはあんぐりとし、愛莉は「ナイス」と言わんばかりに強く頷いた。
「怖い思いしたみたいだし、優しくしてあげなきゃあ」
「そうなの……思い出すと、すごく怖くて」
愛莉は今にも泣きそうな表情を浮かべ、両手のひらで顔を覆った。
しかしその手の内では、微笑しながら横目にキョウヘイを見上げている。
とても先ほどまで命の危機に瀕していた人物だとは思えない。
すっかり騙されているマメタは「大丈夫?」と気遣う言葉をかけるが、バッチリ目が合っているキョウヘイは口の端を引き攣らせた。
キョウヘイの言葉によって愛莉は悲劇のヒロインと化している。今更自分が言ったことを撤回するわけにもいかず、野放しにするには危なすぎる。
さまざまなことを考慮した上で、キョウヘイは愛莉の希望を聞くことにした。
「あー、もう、わかった、今夜だけだからな」
ガシガシと頭を掻きながら渋々了承するキョウヘイに、愛莉はにんまり目を細めた。
「あとのことは僕に任せて、キョウヘイさんはもう上がってください。僕運転するんで」
「へいへい」
現場から歩いて五、六分離れた場所に待機されていたパトカーではない黒一色の乗用車。
運転席にマメタが腰を据え、その後部座席にキョウヘイと愛莉が肩を並べて乗り込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!