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1.出会ってしまったんだからしょうがない。
眩しい光が瞳を射す。
太陽の力ではない。
すっかり隠れた日の丸が二度と昇らないのではないかと思えるほど、この街の闇は長い。
繁華街の煌びやかな明かりは穏やかを置き去りに、まだ未成熟な少女の存在に影を落とす。
日中の騒がしさの代わりに、まばらな人の歩みが危険と不気味を連れて来る。
いわゆる大人しか入れないような店がひしめき合う狭い道の片隅に、彼女はいた。
華やかなリップグロスのようにキラキラ瞬くピンク色のロングヘアー。滑らかな白い肌と長いまつ毛、くっきりとした二重瞼に大きな黒目。その若さはメイクなどむしろ邪魔だとばかりに天然の美を主張している。
怪しげなネオンに照らされた路地、用もない店の角に背中を預けているだけでも、彼女の姿は行き交う男たちの興味を引いた。
身体にフィットするカーキのTシャツにネイビーのジーンズ、履き慣れたスニーカー。ゆったりとしたカーマインのパーカーは初秋の風を防いでくれる。
園田愛莉は長い袖からか細い指を覗かせ、少し伸びた爪をいじっていた。
カバンも持たずスマートフォンを手にしようともしない、その様子は誰かを待っているようでいてとても退屈そうにも見える。
愛莉はぼんやりとした目的を持ち、自身という餌をぶら下げていた。
ここに立っているだけで、夜の空気が愛莉に靡く。なにも言わなくても見えない糸に誘われるように、ふらふらと、今日も一人の男がやって来た。
「……君、こんなところでどうしたの?」
俯いたコンクリートの上、高級感あるダークブラウンの革靴を目にした愛莉は、小さく微笑み顔を上げた。
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