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「どう、して……?」
独り言のように、思わず陽翔の口から疑問が洩れる。
逞しい胸へ引き寄せられていた陽翔は、力強い温もりと共に、少しだけ早く打つ蒼司の鼓動をそこへ感じていた。
蒼司が、ドキドキしている……?
「どうしても何も、陽翔はこの先もずっと、俺と一緒にいたいと思わないのかよ」
隠すことなく憤りをみせた蒼司は、独り言ちるように喉奥から呟く。
苦しそうな低い声に、陽翔は黙って視線だけを上へ向けた。
「俺はこの先もずっと、大学だって、その先の未来だって、ずっとずっと陽翔と一緒にいたいんだ」
軋むほど陽翔のことを強く抱きしめていた蒼司は、両手こそ離さなかったが力を緩め、大きく項垂れ陽翔の肩へ顔を埋める。
「蒼司……」
弱々しい幼馴染の姿に、自然と陽翔の手は肩口に埋められた頭を包むように伸びた。
頭の片隅で、その行為は危険だと警鐘が鳴ったが陽翔は無視をする。
「陽翔の隣りは、ずっと俺であって欲しいんだ」
うん、と陽翔は同調するように大きく無言でひとつ頷き、蒼司の頭を抱きしめていた手にそっと力を込めた。
「誰か他のヤツが、陽翔のいちばんになって欲しくないんだ」
もう一度、陽翔はうん、と大きく頷く。
──愛おしい。
手の中の大きな生き物がとても愛おしいと、陽翔は思った。
「さっきの陽翔のクイズ……正解は、俺たちの街にある二本の木が永遠を誓ったパートナーのように寄り添いながら生えている、樹齢百四十年のハルニレの木のこと、だろう……?」
さすが、北大も目指せるほどの頭脳を持つ賢い蒼司だ。
希望する学部と偏差値が合致する大学が、道内にはない陽翔とは違う。
不意に陽翔はそこで、少し先の未来が急に現実味を帯びたことに不安を感じる。
今のままの成績じゃ、蒼司の隣りにはいられない。
「──離れたくない」
合わせたわけでもなく、同時に二人の言葉が重なる。
瞬間、陽翔の中で何かが弾けたような錯覚を覚えた。
言葉では言い表せないなにか。
なにか、を伝えられないもどかしさを力に込め、蒼司の頭を強く抱く。
強く抱きしめ過ぎて、ヘッドロックのようになり「ギブ!」と蒼司が叫びながら、軽く陽翔の背を叩いた。
慌てて陽翔は手を離し、蒼司を解放する。
自由になった蒼司と陽翔は、自然と対面で見つめ合った。
二人をまとう空気が少しだけ、先ほどまでとは違う。
明確になにが、とこれもまた具体的に言い表せなかったが、確実になにかが動き出した気配がした。
ほんの僅かばかり二人は見つめ合った後、どちらからともなく前を向き、広大な土手沿いを並んで歩き出す。
二人の進む先には遥か遠く、永遠を誓ったパートナーのように、二本が寄り添ったハルニレの木が見える。
END
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