双想い

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「ウチはウチ、よそは他所! だ、ろ? とにかくシャツの裾をズボンにしまうんだ」 眉間に大きく皺を寄せ、語尾に力を込める蒼司の様は、さながら大昔のホームドラマの再放送などで見かけたような既視感を覚える。 負の感情を蒼司へ抱いている内は、『反抗期』で済ませられるからいい。 「蒼司はオレのオカンかよ? こんなド田舎の道、誰もいないのに。ましてやこんな暑い日だっていうのにさ」 軽く舌打ちし、陽翔は全身で反抗する態度をしてみせる。 蒼司はそんな陽翔をじっと熱視線で見下ろしていた。 熱く、ねっとりとした視線だ。 いつからか、反抗する陽翔に向けられることが多くなったように思う。 向けられた視線は、けっして非難めいたものではない。だからこそ、陽翔はその意味がわからず少しの戸惑いを感じている。 同時に、その視線を向けられると印籠のように、最終的に陽翔は無意識に蒼司の言葉に従わざるを得なくなってしまうのだ。 やはりこんなのは反抗期じゃないと、陽翔の本能が警告している。 せめてもの抵抗だと陽翔はシャツの裾を乱雑にズボンへしまうと、蒼司は無愛想な顔を緩め、満足そうに微笑む。 途端、陽翔の中に矛盾が生まれる。 真面目一徹の男が自分にだけ笑いかける姿に、陽翔の顔がかっと熱くなってしまう。 微笑む男にも、今この瞬間、陽翔の変化に気づいただろうか。 つい今仕方、蒼司へ腹を立てたり恐怖を感じていたばかりなのに、たちまち陽翔の胸の奥は、なんとも言えない甘酸っぱさでいっぱいになっていく。 むず痒いと思った。 次の瞬間、なんの躊躇いもなく蒼司の大きな手が後頭部へポンポンと優しく二度触れる。 いつの頃からだろうか。 間違いを訂正した陽翔を、蒼司が褒める代わりにこうするようになったのは。 また、その蒼司に触られた箇所が熱く、陽翔が胸騒ぎを覚えるようになってしまったのは。 ただの幼馴染の言動に、胸を騒々しくさせているのがおかしいことは重々承知している。 だから、無理やり反抗期と名をつけて静かに自身の中で納めようとしたはずなのに──。 やはりこの感情は、違う。 本当は、反抗期なんかじゃないのだ。 では一体、幼馴染へのこの不安定な想いはなんだというのだろうか。
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