双想い

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双想い

「遠くから見るとひとつだけど、近くで見ると実はふたつだったものって、なんだかわかる?」 「……陽翔(はると)、高三のこの大事な時期に勉強しないで、まだクイズ番組ばかり見ているのか?」 隣りで嘆息した長身の男は、少しの乱れもなく校則の規定通り真面目に夏服を着用している。 傍から見ると、まるで夏の暑さなど微塵も感じていないサイボーグのようだ。 「それより、この前の模試の結果はどうだったんだ? 大学受験まで、もうあと少しだぞ?」 北国の夏は涼しいと世間で思われているだろうが、やはり夏は夏だ。それなりに暑い。 三年間でほぼ成長しなかった、やや大きめの半袖開襟シャツの裾を豪快にパタパタと扇ぎながら、陽翔は次いだ幼馴染の小言に暑さ共々、辟易してしまう。 「こら、陽翔。そんなことして、はしたないぞ」 生まれた頃からずっと一緒の幼馴染は、陽翔の行動一つひとつに口うるさい。 母親みたいだ。 否、陽翔の実母だってシャツの裾を仰ぐだけで「はしたない」など、育ち盛りの高校男児に口うるさく注意しない。せいぜい、男のだから多少ヤンチャなくらいが丁度いいわと言うだろう。 「もうさぁ、蒼司(そうじ)はなんでそんなにお堅いんだよ? 学校でもみんなやってるじゃん」 口を尖らせ反抗する。 基本、陽翔の家は女系だが仲良し家族だ。三姉弟の末っ子にして陽翔が初めての男児ということもあり、家族の愛を一身に受け今日まで育ってきた。おかげで反抗する余地などひとつもなく、十八まできてしまったのである。 その反動かなんなのか。少し前から、蒼司のちょっとした一挙手一投足へ過剰反応するようになっていた。 最近、陽翔はそれを、『反抗期』と名付けることで自身の感情に安心感をもたらせようとしている。 幼馴染へ反抗期。 普通に考えたらありえない。 ありえないのだが、この頃、どうしても『蒼司』と関わることで陽翔の感情は大きくかき乱されている。
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