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キケケケ(参考作品:フィンセント・ファン・ゴッホ 作 夜のカフェテラス)
一八八八年冬の中頃の話だ。当時私は名も無い画家として活動していた。
確か、その日はいつものように露店に置いた私の作品達をまとめアトリエに向かっていたきがする。
途中、腕が弱弱しく私の肩を叩く。振り向くと老人が立っていた。左右反対を見ている目、ボロボロな服好き放題に生えたひげ、耳には悪魔のような首が付いたピアスがギラリと光っていたはずだ。『なにかください』と書いた紙を笑顔で私に見せてくる。
何かとはどういうことだ?そう思いながらも私は与える物を探すために持ち物を漁った。
しかしことに渡せるものは無かった。絵でも渡したらよいのかもしれないがこれは私にとって大事な商売道具だ。渡すことができない。
「すまない、渡せるものが無くてな」
私は申し訳なさそうに両手を開き見せた。
老人は甲高くキケケケと不気味に笑うとどこかへといってしまった。
私もまた歩き出した。少し歩いたくと香ばしい肉とハーブの匂いが私の鼻孔に入る。
私は臭いに釣られ匂いの元を追いかけた。すると一つのレストランが目に入る。
昔ながらの建物が多いこの町の景観沿わないほどにきらびやかだった。
「こんなところに店があっただろうか?」
衝動的に店のカフェテラスに座る。店主からメニュー表受け取りアリゴを注文する。
空気に酔いしれているとおなかが鳴る。今日は何も食べていなかった。
そうこうしていると店主が皿をもってこっちにやってくる。私は待ちきれずテーブルにある皿に顔を除く。
しかし、皿の上にあったのはあの老人の首だった。
首は、キケケケと甲高く笑ったままこちらを見ている。
「うわぁっ⁉」
思わず椅子から転げ落ちる。
「キケケケケ」
私は、思わず後ずさりをした。
「あぁぁ!」
私はすぐに立ち上がる走る。
しかし、足が何かに絡まりつまずいてしまう。視線を下げるとちぎれた腕が私の足を掴んでいる。
私は思わず腕を蹴り飛ばし走りだした。
アトリエの前まで一目散に逃げる後ろを見ず必死に。
そのうち恐怖も掴まれた感触も何にもカモが引いていく。
足を止める。
振り向くが何も無い。
上がった息を整えた。
私はため息をしながらアトリエに入った。
後に知ったのだがあの老人は地元ではある都市伝説がある。
キケケケっと甲高い笑う老人に気に入られた芸術家の前に現れるらしい。
その芸術家は死後後世に語られる人物になるとか。
ただし彼に合ったものは誰も生きて帰らないのである。
まだ私の耳にはそぎ落としてもなおあの甲高い声が残っている。
もし、私が死んでいたら。
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