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その夜、朱理は誰かに呼ばれた気がして眼を覚ました。枕元にある時計を見ると午前二時過ぎだ、こんな夜中に両親が自分を起こすとは思えない。起こすとしたら妹の紫織だが、彼女は二段ベッドの下の段で寝息を立てている。
朱理はトイレに行くために静かにベッドを下りて部屋を出た。廊下に出ると視線を感じて振り向く。
ベランダに続くドアのガラスから、輝く瞳で白猫が見つめていた。
「ネコちゃん……」
自分を呼んでいたのはこの子だ。朱理はそう確信し、ドアに近づいた。何かがおかしいと頭の片隅で警報が鳴ったが、眼の前の白猫に触れたいという思いがその音を打ち消した。
ドアを開け、ベランダの欄干の上にいる白猫に触れようとする。しかし、その子はスルリと朱理の手をすり抜けて廊下に飛び降りると、奥へと歩いて行く。
「待って」
朱理は小声で言うと白猫を追いかける。白猫は玄関のドアの前で立ち止まり、朱理を待っていた。円らな瞳で朱理を見上げる。
「開けて欲しいの?」
玄関のドアを開けると、白猫は表に出て行った。朱理は再び待ってと言いながらサンダルを突っかけて、パジャマ姿のまま後を追う。集合住宅の前を悠然と白猫は歩いて行く。朱理はその後ろ姿を魅せられるように付いて行った。
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