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ヤスさんにドアを開けてもらいハンドリムをこいで中に入ると、
「ネクタイ派手過ぎないか?」
「そうか?よく似合っているぞ」
六十歳くらいの男性がふたり。机に寄り掛かりお互いのネクタイを弄りながら、目と目を合わせ見詰め合っていた。
「右側が伊澤さん。元刑事だ。左側が根岸さん。二ヶ月前までは菱沼組の幹部だったんだ。今は縣一家という組で組長の補佐役をしている」
ヤスさんが分かりやすく教えてくれた。
「お、やっと来たか」
「ヤスには勿体ないくらいなかなかの可愛い子じゃないか」
ふたりが僕に気付き、怖がらせないように笑顔で話し掛けてくれた。
「は、はじめまして」
ガチガチに緊張し声が裏返ったけど、気にする余裕なんてなかった。頭が一瞬で真っ白になり、どう自己紹介したか全然覚えていない。
「俺が根岸だ。彼が女房の伊澤だ」
「伊澤です。きみの噂はかねがね聞いてはいた。一度でいいから会いたくてな。旦那が卯月なみにかなりの焼きもちやきだと聞いて諦めてはいたんたが、帰る前に会えて良かった」
伊澤さんが人懐っこい笑みを浮かべた。
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